コンテナガレージ

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汝、我を思い出すべし、なれば道は開かれん。汝の明日より4-6

「長引いた休憩を取ってしまい、申し訳ありません」日井田美弥都は予定より三十分早い、つまり二時間半の休憩を取って店に戻った。長いという表現は、一時間の休憩時間と比較した発言である。刑事二人は店には入らずに、そのまま駐車場で反転し走り去った。警察が連れてきたと店長に感づかれないためだろう、O署の警察を店長は毛嫌いしている。
 店内のお客はカウンターにゼロ、二階から漏れる話し声が聞こえた。美弥都はエプロンを付け直し、カウンターに入り、手を洗う。
「電車が止まってるから、さっきまですごかったんだからお客さんで」店長は大きさを表すような仕草で胸の前に巨大な玉を想像させる動きをとった。シンクの洗い物が溜まっている。店長の言葉は事実らしい、態度に反して。美弥都は洗い物に手を付けた、そして店主に休憩を促す。
「店長もどうぞ、休憩に入ってください」時刻は気温が下がり始めた、午後の四時前である。
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。美弥都ちゃんも、休めていないんじゃないの?」店主はレジの簡易な椅子に腰を下ろして、温泉に肩までつかる時の声、あるいは仕事終わりのアルコール、主にビールを飲む際に発する音声を音量を抑えて声に出した。
「移動は座れていましたから、問題ありません」
「そう」店主は首を鳴らして、肩の張りを確かめている。「お客さんは今日はもう来ないかもしれないから、上のお客がはけたら、美弥都ちゃんもタバコを吸っていいからね」
「はい」
「それじゃあ、ちょっと出かけてきます。何かあったら、電話して。一時間ぐらいで戻ります」
「いってらっしゃい」
 ドアベルのきらめきが、耳に届いて、食器が奏でる音が店内を支配する。二階では、たまにどんと床を踏み鳴らす振動。騒がしい、とまではいかないまでも騒々しさへのベクトルは確か。美弥都は食器の汚れを落として一度、濡れた食器を拭く前に、二階に上がった。まだ下げていない食器が残っているように予想したからである。四人組の席の会話が止まって、しかし、彼女が作業に集中すると会話が再開、どうやら人の顔についてあれこれと忌憚のない意見を述べているようだ。食器をトレーに載せて、階段を下りる。ある人物の恋人について、その醜さをあれこれと言い合っている、いいや、貶していた。
 完璧な顔などあるはずがないのに、追い求めるとは。私が言うと嫌味だと捉えられるらしい。好きでこの顔に生まれたのではない、あなたのその顔と同様に。いや、その顔だから非常識な意見を言う性格を持てたはずだ、もしも不細工に生まれていれば……、まったく不可解な過去だ。思い出される事自体に驚いている私。気にしているのだろうか。もちろん、整った顔は好まれるだろうが、人の顔を形容する時に私はあまり綺麗や汚い、あるいは不細工、美形などの形容を避ける。あえて、その特徴的な顔の一部を端的に強調する。大きすぎる目であるとか、厚すぎる唇であるとか、高すぎる鼻であるとか、張り出したあごであるとか、広い額であるとか。ただ、私は罪悪を込めない。見たままを話す。尋ねられたら、答えるのであって、自分からは決して言ってこなかった。