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自作小説-鋭敏なのは鈍角だから

パート4(8)-4

色の調節が私には可能となった。単色でも二色を混ぜても配分を変えても、僕は生きている。 学校の創立記念日を利用した平日の休息の翌日に、僕は視野を取り戻した私で登校した。クラスメイトが駆けよる。 未体験に戸惑いつつ、順応、機敏に対処。やっかみを…

パート4(8)-3

狂乱。 ベッドから天井見つめて、また死角の漆黒を今度は両目に。 遮光カーテンが午後の光を遮って、いつの間にかの今日、三度目の目覚め。 視界の欠落は改善され、両目とも通常の視野領域を確保してる。これまでの私、いいや僕を探す。しかし、見つからない…

パート4(8)-2

エレベーターに乗り込み一階で下りたら、玄関で待ち構えていた白衣の医者が出迎えた。個室に案内される。特別室の表札が下がる部屋。 左に引かれたドアに肩がぶつかる。いつものことと医者たちの心配を落ち着いたトーンで一蹴する。 僕は実験体。病院着に着…

パート4(8)-1

衝突回避機能が搭載された車の後部座席、右側に乗り込んで病院を目指した。母の車である。父は遅れてくるらしい。休む必要性はない、という言葉を父に投げ掛けてみた、もちろん脳内での話である。結果は、当然のごとく、この世の終わりのような悲壮感をにじ…

パート3(6)-7

「ねえ、どうしたの、その色。ペンキじゃないの」洗面所、鏡の前に連れて行かれる、右腕、肩甲骨から肘にかけての背面にピンク色の塗料の付着が見て取れた。塗りたての外壁にもたれ掛かって、色がついてしまった、そんな状況を連想する想像上の出来事に近い…

パート3(6)-6

老人は続けて話した。「家には誰もいないようだったね、鍵がかかっていた。家に電話を入れたら、繋がってお母さんと連絡が取れたよ。どうする、家で待つかな、それとも君の家に帰るかい?ああ、その前に、体は大丈夫?」家の電話は一定のコールまでかけ続け…

パート3(6)-5

ドン、次の瞬間に衝突音が聞こえた。 首を伸ばして、前の通りを眺めようとしたら、鈍痛。意識が遠のき、視界が雪みたいな白にすりかわった。 暖かい空気が纏いつく、過剰な室温の高さ。 僕は起き上がる。髪が遅れて背中に当たった。外ではない、室内だ。白壁…

パート3(6)-4

「私はあなたの死角を求める者です。家の裏手に移り住むあなたが、もし環境や家を提供した組織に嫌気を感じたのならば、私どもを頼っていただければ、共に有益な時間を今後は送れることでしょう。常日頃より、あなたを見張っています。探してもおそらくは見…

パート3(6)-3

「ご自由に」老人はドアに消えた。 老人の行動を詮索してもしょうがない、僕は意識をリビングのテーブルに強制的に代えた。ダンボールが二つ、置かれている。近づいて開封した。家電量販店にてPCを購入していた僕は、学校の帰りにターミナル駅で一度改札を出…

パート3(6)-2

その日は円満な家庭が維持されて、翌日。父は週末でも仕事。ならば平日に休みが取れているかといえば、そうではなく、忙しいためかもしくは父が積極的に休日返上で仕事をしているらしいのだ、晩酌後の母が前に漏らしていた。 家を空けて、父が通常の八時に家…

パート3(6)-1

母の仕事は自宅が仕事場に活用されるため、自宅待機が長期間続いた。ただ、裏の様子は自室の窓からも確認できたし、近所や近くの公園でなら外で遊ぶ許可も下りていたので、外出を装って裏の家の外観を眺めた。 以前は、空き地であった場所にいつの間にかログ…

パート1(3)-4

「商品や情報は家には持ち込めません」 「ご自宅の裏庭に建つログハウスをご存知でしょう、そちらをご提供します。老人を一人、体裁のために住まわせ、表向きは別荘を訪れる住人という印象を近所に振りまきます。出入りは、物置の裏、芝生に地下へ通じる通路…

パート1(3)-3

「いいえ、怖いから話を合わせていただけ」女性はぐるりと目を回した。電車の駆動に、笛の音、車両がホームを去る。風が吹き抜けた。 「ポケットの物を出してくれないかな?」素直にカードを差し出した。未練はない。「ありがとう」 彼女が立ち去るのを見送…

パート1(3)-2

「具体的な普及はそちらにお任せします、そういった方面に興味はありませんので」 「製品化は来年初旬を予定しております。それには……」 僕はさえぎる。「わかっています、出資者を納得させる詳細なデータが必要なのですね」 「はい。私どもとしましては、価…

パート1(3)-1

二駅を過ぎて、席が空いた。車両は混雑時に内部まで人の収納を可能とする長椅子だけではなく、二席が両サイドに配された作りの車両であった。僕は空いた席に腰を下す、背中の鞄を胸に抱えた。隣の男性、白髪のスーツを着た人物は、かしげた首を車両の揺れと…

パート1(2)-4

「また、お話をさせてください。詳細は後ほどお知らせします」 「方法は?」 「家や学校以外の場所で、お渡しします」男は女子高生、僕と別れを惜しむ彼女を引っ張り、黒のセダンで走り去った。ロータリーに学校の職員が降り立つ、教室で会った教師だ。目標…

パート1(2)-3

「どちらで僕を知ったのでしょうか?」 「視野を失くされた時です」 「病院にあなたがいたのですか?」 「病院の関係者があなたに関与した、と申しておりました」 「その方は見返りを頂いたのですね?」 「はい。密告ですから、金銭が目当てだと想像がつきま…

パート1(2)-2

「まだ、学校を出ていなかったの?」教師のとげとげしい声である。僕は首を縦に振る。これから教室を出るとは言わずにいた、こういった場合は素直に従うことがその場をやり過ごす、僕を殺すことで円滑に状況が流れる。 教師の左手に生徒の辞書が見えた。後ろ…

パート1(2)-1

暖かく感じたことのない南風に曝され結んだ髪が解けそうなぐらいに空を回遊、途切れた左の視界を補う右目をかろうじて薄く開ける。タイミングが悪い、砂埃が目を開けた途端に襲われた。コンタクトを装着していたなら、多分、今頃うずくまって涙を流している…

パート4-3

病院の入院着、水色の袖が目に飛び込む。これだっていつ着たのか、着させられたのかさえ皆目見当がつかない。目の前にはクローゼット、手をかける、引きあけた。違う、私の服じゃない。私は紺色のニットなんて持っていないし、プレゼントで貰ったとしても多…

パート4-2

「手を尽くしてくれて、ありがとう。この国で視界を取り戻せるとは思っても見なかったの。皆さんのおかげです」言葉は違えども、感謝という概念をイメージして伝えてみたら、涙を流したり、さらにもっと深い皺を刻んだり、あるいは背を向ける、と抽象的な情…

パート4-1

高所の建物。引かれたカーテンは一様に白、高い雲と酷似。白い雪とは違って見えた。通された部屋は一階の部屋。右側の視界の解放に合わせてか、用意された個室のベッドに仰向けなり、僕は薬によって意識を失った。これは自然な眠りかそれとも、局所的な身体…

パート3-6

リビングのカレンダーに目が留まる。日付に丸印。明日が死角を取り戻す日。右目を開放する日。左目の僕はこれでお別れだ。今日中に、考えを書きとめてあげよう。彼らが親切に取り計らってくれたからではない。自分のため。証拠を残すためだ。こればかりは、…

パート3-5

死角ついてはほぼ見解がまとまり、書き留めるのみ。監視しているのだ、あちらもただ観察しているだけとは思えない、僕が読み漁る本や取得する情報から彼らなりの死角について議論に議論を重ねている。訊かれたら答えよう、僕はそう決めた。 バスでは右側の席…

パート3-4

「庭のことは黙っていてはくれないだろうか?」何のために、口からでかかったが、助けられたお礼に主人の希望はかなえた。僕は首を縦に振って、つまらない微笑を作り、家を離れた。殺風景ないつもの通りである。人気もない。冬に車に乗らない人はつまりは、…

パート3-3

暖炉に置かれたマッチを擦って、紙に引火、灰に放り投げる。赤々と灯ったらすぐに鎮火した。そのときである、玄関が開いた。直接玄関はリビングからは見えない家の造りではあるが、ドアの開閉音は聞き取れた。 「すぐ、自宅へ戻ってください」戻った住人は言…

パート3-2

いつものように宿題を一問残したページを開き、消しゴムのカスを作り、準備は万端、裏手に移動した。死角の構築はこの数日でだいぶ進行した。室内であれば、左右非対称の死角に色と形をつけ、屋外では、三百六十度、体を一回転させて、道の角や起伏の始まり…

パート3-1

僕は家と学校の制約下では購読困難な本を取り寄せて、それらに没頭した。 一時間。 耳に届く警告音が、外界とのコンタクトを要求、不必要に死角に配っていた意識を思考に回す僕は、反応が遅れた。それでも焦らずに地下室を通り抜けて、裏庭に出る。しかし、…

パート2-5

「要望にお答えします」 「不満ですか?」 「いえ、ただ反論なさるとは思っていなかったので」野心家には見えなかった。「どちらかといえば、哲学者や科学者とお見受けしました」呟きには答えずに僕は質問をぶつけた。 「どこで僕を見つけたのですか?」 「…

パート2-4

疑問を抱いて、タクシーに乗り込む。広大な土地を移動に移動、ほぼ一日をかけて生活、仕事、学校の手続きを済ませ、家に着いたのはほぼ深夜。父の仕事場の訪問が最後であったためにそこの滞在が最も長く意味のない表面的な会話に興じて長引いた。母の仕事場…