2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧
「ああ、失礼。はい、そうです、署内で関係性は取り沙汰されていません」熊田がフォローする。 「ありがとう。事件が未解決のままなのはそれが理由です」 「銀行強盗犯が殺人犯だと言いたいのですか?」食って掛かりそうな種田が言葉のあらを探すように美弥…
種田は美弥都に視線を跳ね返されてから視線をテーブルに落としてコーヒーを啜っていた。新しいものを取り入れようとすると反発の登場。収めようとしても無意味だ。ただ、なすがままにその感覚、感情、感応で上体の維持に努めると自然と体は細胞に新参者を落…
「仕事中です」きっぱりと美弥都は言い切る。 「私もです」熊田も負けじと言い返す。 「何度目でしょうか。私は雇われの身ですから、しかるべき対象者に断りを入れてくださらないとお客と店員を踏み越えて会話に没頭するわけにはいきません」美弥都はおどけ…
一口目からカップを置くまでに、熊田が近くにいる美弥都へ意を決して言う。「あの、ひとつお聞きしたいことがあります」伏せられていた彼女の大きな瞳がとんでもなく透明で隠していた嘘を告白する時の緊張が体に走る。 「私にですか?」 「はい」熊田はゴク…
そのような思いと対を成して、日井田美弥都に事件についてどう切り出そうかを思いあぐねていた。かくいう、自分は口下手である。刑事としてはマイナスと思われるが仕事の大半は相手が話している状態が常である。勝手に上着のタバコに手が伸びる。熊田の動き…
日暮れ時、喫茶店のアスファルトにほんのりと赤の模様。絶命寸前の輝きも雲に覆われてしまっていた。二人は店へと入っていく。入口の引き戸にちょこんと地べたに張り付いていたトラ柄の猫がひょいと首を向けたが、威嚇もせずごきげんも取らない。目を見合わ…
「不可能だと認めることも時には必要だ。ないことを嘆いても充足感は満たされない。否定はさらなる否定を増加させる。きっぱりと別れてしまったほうが楽なんだよ」 「諦めですよ、それは。現実に……」 「目をそらすな、しっかりと見つめろ!」熊田が言いかけ…
種田は小走りに署の駐車場で丸まった背中の熊田に追いついた。右指にはタバコが挟まっている。 「熊田さん」熊田のシビックのドアに手が触れた時に種田が声をかけた。多少息があがったていたがものの数秒で整えた。振り返った熊田は驚きも意外も、感情を表す…
「そうだな。話したというか、報告だよ。警官がエンジンオイルを捨てた映像を上層部に上げなかったもっともらしい訳を言ってきただけ。お前が知りたい事件のその後については現在も状況に変化はない。休暇中の警官もまだ自宅には帰ってきていなしな」熊田が…
「それは国道を走ってみればわかります。Z町から向かうとトンネルの反対側に出る道の方が近道ですが、ちょうとカーブの頂点でトンネルへの道と繋がっているのであそこで減速すると後続車に追突される危険があるために遠回りをしたのでしょう」他人の喫煙に…
「……ここ禁煙ですよ」澄まして熊田が指摘する。 「お前、怒られるのがわからないのか?俺のことはどうでもいい、証拠を隠してた事実はそう簡単に許されはしない。わかっているのか?」 「はい」明らかに捜査の進捗状態よりも自身の進退に比重が傾いている。…
上層部の面々は長机に揃い、入室の熊田を一瞥、無言だ。後方から前列付近に到達すると熊田が言う。 「お呼びでしょうか?」 「お前、録画した映像を提出しなかった正当な理由があるのなら言ってみろ」片肘をついて上目遣い、白眼が強調された瞳で中央に座る…
血液が凶器に付着していれば殺害に使用されたと断定されるが、警官の部屋から見つかっただけであって当日の警官のアリバイはまだ正確には照合されていないのが現状である。つまり、何者かがもしも凶器を警官の部屋に忍ばせておくことができれば疑いのかかっ…
まず警官の逃走については、特に尾行を巻くための逃走ではなったそうだ。正義の象徴である警官としての自覚が裏目に出たといってもいいだろう。急ハンドルで進路を変えたのは覆面パトカーに目撃されたため。つまり、追いかけてくる熊田の車両を覆面パトカー…
夕刻の住宅からは夕食の匂いが換気口を伝って外部に漏れ出していく。日はすっかり暮れて、突然のカーチェイスから一転して白バイの登場は急展開で終幕。数分遅れでやっと別班の捜査員たちの車両が到着したが、まだ白バイが現れた詳細な説明は誰からももたら…
「あいつ何考えてんだよ。これから事件を起こすつもりじゃなかったのかよ」相田に悲愴な声が含まれている。 「知らなですよ、でも逃げるってことは犯人だって言っているようなもんですからね。何か、証拠でも隠しもっているんですううううよ」前のシートに体…