いつものように宿題を一問残したページを開き、消しゴムのカスを作り、準備は万端、裏手に移動した。死角の構築はこの数日でだいぶ進行した。室内であれば、左右非対称の死角に色と形をつけ、屋外では、三百六十度、体を一回転させて、道の角や起伏の始まり、階段、建物の入り口、信号などで景色を覚えるのだ。地図が読めない人のための訓練、定期的に歩く道を振り返って背後の意識を高める方法を取り入れた。これは取り寄せた本で読んだ考えを元に試してみた。
「それでは私は席をはずします」裏の家、階段を登ってリビングへ、一階の部屋に座っていた表向きの住人が出かけた。テーブルにはダンボールが二つ置かれている。ダンボールのひとつには、飛行機関連の書籍と辞書。もうひとつは、昨日の夕方に届いた荷物。中を開けると、緩衝材で丁寧に梱包された家電製品のような箱が姿をみせる。気になって、ラップトップを開いて購入履歴を調べた。やはり、該当する注文は見当たらない。不振、いやな感じも拭いきれないが、ここへ送られてくるのは、彼らの伝言という確率も高い、現に僕にはそのような連絡方法を取ると電話で伝えていた。しかし、及び腰。……待ってもしょうがない、僕は思い切って箱を開けた。すると中から、一枚の紙が姿を現した。不審に思いつつも、そっと中身を確認した。
「あなたの才能は我が社が誰よりも認めていることをまずはお伝えします。率直に申しますと、あなたの行動は私たちも監視しておりまして、いつでも私どもに頼っていただくため、学校とご自宅の周辺にはあなたの安全を守る社員が常に待機、警戒にあたっている。ゆえに、どうぞお好きなときに、気が向いたらでよろしいので、ぜひ一度私どもの所へ遊びに参られてはいかがでしょうか。私どもからそちらへは、立ち入りが許可されておりません。業務上の干渉を引き起こすのです。あなたはとても優秀であります、だからこそ、その頭脳を持つはあなたを管理する企業と私どもを天秤にかけ、より有益な、信頼性に富む、あなたの望む製品への移譲を成し遂げる組織に、正しい判断をあなたは下せる。勝手な忠告と申し出ではございますが、なにとぞ、あなたの左目の価値を我々にも垣間見せていただけたらと願っております」表向きの言葉をあえて並べたような文章だ、それを嫌う僕の傾向を確実に察している、そんな文章である。挑発。ただで引き下がれば、僕の価値が下がるように思い込ませた策略だろう。しかし、行動を起こすつもりはない。不完全な対象へ身を晒すほど、見誤ってはいないのだ。
紙は燃やした。