「施設の稼動はそちらの都合で中止になったと聞きましたが、私にはまったく持って連絡が入らなかった」男は皮肉を込めて言う。「施設は壊され、景色が一変していたのは、驚きました。そちらが要請したのに」
海岸の防波堤。風はなびく程度、海鳥の飛翔も見えない空はうす曇が大半。
「臨機応変な態度と褒めて欲しいわ。私のせいだって思わないでちょうだい、雇われてるのはあなたと変わらないの」
「クライアントへは、僕が調査を担当して、追加の依頼は断りましたので、一応伝えます。会社の処理はそちらで行ったようですね」
「捜査の手が伸びていたから仕方ない。悪気があって、短期間で閉めたとは、あなたなら思わないか。どうも低回転な奴と話していたら、頭の働きが悪くなって嫌だ」
「意外なほどの金額が口座に振り込まれてます。必要ないと思いますけれど、お返ししたいのです」
「ああ、それね。好きに使って。必要ないとは思うけど、形として受け取ってくれないから、直接振り込んだのよ。居場所だって知らなかったし」
「施設を移転するそうですね?」
「あなたも来る?部屋は有り余ってる」
「いいえ、やめておきましょう。やるべきことが見つからないうちに手を出しても願った成果は得られない」
「試作品を簡易につくり上げてみたら?実験ってそういうことでしょう?」
「目的が不明確なのです」
「毎日通う場所があったら、そこへ足を運ぶは。それぐらいの負荷が創作には必要」
「良くご存知で」
「馬鹿にしてる?」
「本心です」
「どうやってあの人たちを見つけたの、直接接触したの?」
「どうかな。手の内を見せるわけにはいかない」
「ヒントは?」
「そうですね。通常とは異なる方法を繰り返したとでも言いましょうか」
「なるほどね。たまたまから偶然に発展させた」相手は髪を払い、後ろで縛る。風が出てきた。「常に情報を集めているのかしら、何もしてない時間が長いように見える」
「実際はその通りです」
「次は何を?具体的でなくとも、大体の方角は定まっているはずよ」
「……リセットできないものでしょうか?」
「やり直すってこと?」
「眠るように朝の目覚め、まだ自分とは意識していない、ホテルのベッドで今ここがどこであるかわからない、そういた状態を瞬間的に体感できないものかと、施設の解体から考えてました」