コンテナガレージ

小説・日常の情報を発信

当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

4-6

「私が買い上げますので、皆さんはどうかこのお金で引き下がってくださいませんか?」早瀬は白い厚みのある封筒を五つ、テーブルに無造作に置いた。投げたと言い換えてもいいだろう。

「この時勢に一軒家の購入を望む面々にそれぐらいのはした金など、触手が動くはずもないだろう。あなたの立場に置き換えれば、理解が簡単だろうに」早見が隣の女性を直接見ることなく発言した。場が一気に張り詰めた空気に移行する。

「そちらはマンションの債権です。数十年先までの価値を有する優良な物件ばかりを取り揃えました。皆さんが住まれるとは思いませんが、現金に換えると、一部屋を最低五百万と換算しても、ええ、これからの人生をより豊かにそしてあなた方の理想の更なる追求の手助けをしてくれると、私は思っておりますのよ」早瀬の発言を信用すると、封筒の資産価値は数十億はくだらないだろう。数人が身を乗り出し、席に座り直した。早道はごくりとつばを飲んでいる。

「父に連絡を入れておこうかな、ここへ無事に着いた報告がまだだったんですよね」そういって早道は立ち上がり、端末に話しかける。テーブルの話は次の展開に流れた。

「私はまったく興味がありません」早坂は扇子で風を送りつつ、早瀬の意見を真っ向から否定。傾いた、ぐらついた意識からは復帰、金額に目がくらんだのも事実であるが、彼女は目的が明確なのだろう、意志は強く固い。若者は立ち上がって、なにやら訴える声を漏らす。報酬を強請るいい機会だと踏むのが妥当、調月はしばらく彼らに会話を委ねて見守った。

「私も同意権です」次に話を始めたのは早坂という若い中年の。彼女は誰かの代理ではなく自らが赴いているらしい、お客の情報はこれから集めるつもり、調月は彼らを知らないまっさらの状態で顔合わせが続く。

「私はその倍額を提示してくれるなら、条件を飲みますけど」早野がその次に口を開いた。まったくもって、土地には興味がないように見えた。彼女を選出から外すか、いや。そうか、彼女はこちらの宣言を踏まえて状況に応じて意見を切り替えたのか、それならば最良の選択と言えなくもない。ただし、信念や執念や思い入れはその程度であった、ということがいえる。

 一人一人の意見が出揃ったところで、調月は条件にそぐわないと感じているのなら、即座に席を立つように提案をしてみた。これは時間の有効的な使用法と早野のような土地に対する関心の低さをふるいにかけることが目的である。あまりにも我が強いと引き下がる事へも抵抗を感じるのが、資金を得て、確実に自分の範囲を外側に広げた人物たちの退路を嫌う性質である。これは若い早道は除く。早苗は自立した人物と予測を立てた。