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まずは、物事の始まりから7-6

 ステージの歌手と目が合った。観客の何人かが歌手の目線を追って私を見据える。嫉妬か?人間の野性味は感情の発火に残されたのかも、熊田は思考を飛び越える動作と意識が通った観客の行動に意味付け。軽く頭を下げた。彼女の活躍の場を奪ってしまった非礼を詫びたつもりである。しかし、歌手はお辞儀を返すどころか、興味を失っていつの間にか持ち運んだスツールに腰を下ろし、ぶらりと両足を振っていた。もちろん、視線は外れている。

 三階の観客はかなり少ない。一列に一人か二人。もっとも安価なチケットの購入者は、階下の高額な席と比較するまでもなく全体的な収入の格差は否めない。つまりは、電車、地下鉄以外の交通手段に割く出費は収入に占める割合が高く、いくら待ち望んだライブ鑑賞であろうと、臨時の出費は避けたい。あるいは、会場に向かってはいるが、間に合わないために来場をあきらめたか……。または、空席だった。調べれば判明する、詮索は後にまわすことにするか、熊田は一通り観客を後ろ手に観察して歩き、三階を降りて二階へ。二階は、受付に繋がるドアを一度開けて、受付嬢を呼び寄せる。警察に連絡、それと鑑識を要請している、熊田は自分の所属を名乗り連絡を彼女に頼んだ。もう一名の受付をさらに手招き、入れ替わりにやってきた人物へはドアを見張るように、自分と種田、そして美弥都の三名以外は警察が到着するまで中に入れてはならない旨を教授、出入りの許可がほしい場合は、インカムで内部の人間に伝えて、私に届けるように、とも言い添えた。