「地下、アイラ・クズミの楽屋です」
「帰らないのか?この後の行動は、自由だが」
「いいえ、帰ります。ですが、こちらに来ていただかなくてはなりません」
「正当な理由は?私は彼女のファンではないよ」
「警視庁の佐山さんと新谷さんが、一部のお客、正確にはホーディング東京の特別室を利用した四名を引き止めて、これから事実確認を行うそうです」
「……だそうですが、どうしますか?」熊田の声が離れた、電話口で誰かと話してる。誰か?あいつしかない、ぬけぬけと捜査に加わるとは、まったく。「そっちに行く、ああそれと……」
種田は通話を途中で切り上げた。このぐらいの仕打ちは当然。認められるべきだ。アイラが笑っている、みられていたようだ。彼女はタバコを吸っている、外見的な印象は厭わない捨て身の覚悟か、それとも……。
種田は、髪の長かった過去を思い出した。髪を切る理由を見出さなかった。機械のような、伸びたら一定の長さに切り揃える、それが対面を取り繕い両親を安心させる成長が止まった私の役目。
引き出された感情、愛情に起因してる?ありえない、そんなことは絶対に、いいや、言い切れはしないだろう。だが、どちらとも明確にあらわす必要もないのだ。そもそも形などあってないような感情なのだから。
「いいですか、皆さん。事件の関係者以外は全員廊下に移動してください」高い声の佐山が爪先立ちで言い放つ、アイラは身近のスタッフに指示に従うように要求、アイラ・クズミ、特別室の四名、刑事三名以外を楽屋から追い出した。